テレビや映画、漫画、小説などで幅広く知られる陰陽師・安倍晴明。実は、茨城県筑西市猫島に彼の生誕地があると言われています。市内にゆかりの史跡があるとのことですので、さっそく巡ってみました。
安倍晴明(921年~1005年)は、平安時代中期の陰陽師です。天文や占いなどを司る朝廷の機関「陰陽寮」に所属し、類まれな才能で天皇や貴族から厚い信頼を寄せられていました。式神を操った、数々の怪異を鎮めたといった不思議な伝説が多く残されており、今でも絶大な人気を誇る人物です。
筑西市が生誕地とされているのは、地元の旧家・高松家に伝わる古文書「晴明伝記」に記載があるためとされています。この地で父・安倍益材と地元の女性「千代」の間に生まれ、東国で育ったと伝えられています。また、陰陽道の書物である「簠簋抄」に「常陸国猫島」で生まれたと記されていることも根拠となっているそうです。あの有名な歴史上の人物の生誕地が、私たち「とりぷれ」エリアにあるとは驚きですよね。
生誕地には諸説があり、大阪市阿倍野区という説が最も有名です。古代豪族「阿倍氏」の本拠地であり、「安倍晴明神社」の境内には「安倍晴明生誕伝承地」の碑や、産湯に使ったとされる井戸の跡が残されています。他に香川県高松市香南町という説もあるそうです。
いざ「安倍晴明展示館」へ!
まず最初に訪れたのは、筑西市宮山にある「宮山ふるさとふれあい公園」です。バーベキュー設備をはじめ、キャンプ場、水遊び用のジャブジャブ池、散歩しながら利用できる健康遊具、陶芸工房など、多彩な施設がそろっています。その施設の一つに展望台1階部分に設けられた「安倍晴明展示館」があります。

展望台の1階にある安倍晴明展示館の外観。現在展望台は利用できません(筑西市宮山)
「安倍晴明展示館」は無料公開されています。入口付近には、安倍晴明のシンボルマークともいえる五芒星をかたどった花壇があり、美しく整備されていました。

安倍晴明展示館の前にある五芒星をかたどった花壇(筑西市宮山)
その傍らには「安倍晴明ゆかりの歌碑」があり、「恋しくば尋ねきてみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と彫られています。

安倍晴明展示館入り口にある「安倍晴明ゆかりの歌碑」(筑西市宮山)
この歌は、安倍晴明を育てた白狐が、我が子に正体を見破られた際に書き残した歌と伝えられています。この子別れの場面は、のちに歌舞伎などの演目としても有名になりました。
大阪の伝説では晴明の母親は「白狐」とされていますが、筑西市の伝説では、栃木県那須の「九尾の狐(玉藻前)」伝説と関係があるとも言われているそうです。いずれにしても、母親が狐であるという伝承は共通しており、貴族と地方勢力、あるいは渡来人との婚姻といった当時の不都合な出自を隠すためのものと考えられています。
展示館の中に入ると、五芒星の提灯が出迎えてくれます。展示スペースには、安倍晴明の人物像や、関わりの深い天文学、陰陽道の歴史、近隣にある安倍晴明ゆかりの地の紹介がありました。茨城県古河市出身の漫画家・岡野玲子さんが描いた美麗なイラストも目を引きます。岡野さんは、小説家・夢枕獏さんの小説「陰陽師」のコミカライズを担当しています。

古河市出身の漫画家・岡野玲子さんが描いた美麗なイラスト
猫島地区の安倍晴明史跡を巡る
せっかくなので、展示館で紹介されている筑西市猫島地区付近の史跡も巡ってみることにしました。
■ 晴明橋公園
江戸時代、猫島集落には「晴明橋」という地名と橋があったそうです。集落内のため池から流れ出た小川に架かっていた橋は、安倍晴明が地元の御影石を使って設計したと伝えられ、どんな洪水にも耐えたと言われています。区画整理の際に小川と橋はなくなってしまいましたが、その場所が現在「晴明橋公園」となっています。説明の碑文や晴明橋の石が残されており、公園の背後には筑波山の堂々とした姿を望むことができます。

晴明橋公園から筑波山方面を望む(筑西市猫島)
■ 米御前神社よねごぜんじんじゃ
西暦950年ごろの創建と伝えられる、猫島地区に鎮座する神社です。祭神は、五穀などの食物や養蚕の神である保食神。現在は無人となっており、石造りの鳥居とともに静かな森の中にたたずんでいます。

森の中にしずかにたたずむ米御前神社(筑西市猫島)
■ 晴明神社
猫島地区の高松家の敷地内に鎮座している小さな社です。覆いの中に本祠があり、両脇には小さな祠が並んでいます。安倍晴明の先祖とされる阿倍仲麻呂を八幡大菩薩として祀り、信田明神として稲荷大明神が祀られているそうです。気を付けて探さないと見落としてしまうほど小さな建物ですが、一度目にすると何となく離れがたい不思議な迫力を感じます。
また、すぐ傍らには「五角の井戸」と呼ばれる直径3メートルほどのくぼみがあります。形が五角形に見えることからこの名で呼ばれているそうです。筆者が訪れたときは草に覆われており、はっきりとした場所が分かりませんでした。現在は枯れていますが、かつては清水で満たされていたそうです。

高松家の敷地内に鎮座している晴明神社(筑西市猫島)
■ 晴明塚
こちらも猫島地区の高松家の敷地内にある旧跡です。当地に疫病が流行した際、安倍晴明がここから筑波山に向けて矢を放ち、病を鎮めたと言われています。この場所からも、遠くに筑波山を望むことができます。

晴明塚から筑波山方面を望む(筑西市猫島)
筆者は高校生のころ、荒俣宏さんの小説「帝都物語」シリーズを読んで、安倍晴明や五芒星について興味を持ちました。今回の取材でも、その頃の懐かしい記憶を辿りながら、聖地巡礼気分でゆかりの地を歩きました。なお、晴明神社、晴明塚は、個人の敷地内なので、ご迷惑をかけないように注意しましょう。
住所:茨城県筑西市宮山504
電話番号: 0296-52-3610(宮山ふるさとふれあい公園管理センター)
開館時間:午前9時〜午後5時
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
入館料: 無料
