茨城県境町出身の元Jリーガー野口裕司さんが語る「スカウト」の裏側 セレッソ大阪を支える情熱の源泉とは?



スカウトとしてセレッソ大阪を支える野口裕司さん(セレッソ大阪提供) ひと

Jリーグの京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)や大宮アルディージャ(現・RB大宮アルディージャ)で活躍した、茨城県境町出身の元プロサッカー選手・野口裕司さん(54)。三浦知良選手やラモス瑠偉さんなど、誰もが知るレジェンドたちと同じ時代をピッチで駆け抜けた人物です。

現在は、J1セレッソ大阪のフットボールオペレーション部リクルート・スカウトグループのグループ長として、主に高校生や大学生といった新卒選手のスカウト業務を統括しています。

「クラブを支える裏方のスタッフ」としてお話を伺うつもりで取材に向かった筆者でしたが、その想像は良い意味で見当違いでした。野口さんがどのような情熱を持ってサッカーと向き合っているのか、ぜひ最後までご覧ください。

■育成の名門・セレッソ大阪を支える「目」

野口さんが所属するセレッソ大阪は、1957年に創設され、兵庫県尼崎市に本拠を置いていた「ヤンマーディーゼルサッカー部」が前身です。1995年のJリーグ昇格以来、大阪市や堺市をホームタウンとして活動する名門クラブ。大久保嘉人さん、香川真司選手、南野拓実選手など、数多くのワールドクラスを輩出してきた「育成力」には定評があり、その攻撃的なスタイルは多くのサポーターから愛されています。

■境町からJリーグへ。選手時代と裏方への転身

野口さんがサッカーを始めたのは小学3年生のとき。兄が所属していた境町のサッカー少年団について行ったのがきっかけでした。小学4年で町内の選抜チームに入り、茨城県立境高校ではキャプテンとして県大会優勝、関東大会出場を果たします。この関東大会で駒澤大学からスカウトされたことが、その後の運命を大きく変えました。

自身のサッカー人生を振り返る野口裕司さん(セレッソ大阪提供)

自身のサッカー人生を振り返る野口裕司さん(セレッソ大阪提供)

駒澤大学では1年時からレギュラーとして活躍し、4年時には総理大臣杯で全国ベスト4。1994年、鳴り物入りで京都パープルサンガへ入団します。FWとして開幕デビュー戦でVゴール(※)を挙げるなど華々しいスタートを切り、その後はサイドバックへコンバート。キャプテンとしてもチームを支え、2002年度の天皇杯制覇に大きく貢献しました。
(※当時のルール。延長戦で得点が入った時点で試合終了となる)

2003年に大宮アルディージャへ移籍後、怪我の影響もあり惜しまれつつ現役を引退。しかし「サッカーに関わり貢献したい」という思いから、指導者・スタッフの道を歩み始めます。京都での強化部長などを経て、2018年からセレッソ大阪へ。U-23チームのスカウトなどを歴任し、2026年2月より現在のスカウトグループ長に就任しました。

野口さんがスカウト業務に興味を持った原点は、高校時代に受けたスカウトでした。「境高校のような無名の学校でも、ちゃんと見てくれている人がいるんだ、という当時の驚きと喜びが、現在の仕事の根底にあります」と振り返ります。

■スカウトは「年中無休」。全国、そして世界へ

「シーズンオフなど、お時間がある時で大丈夫です」と取材を申し込んだ筆者に対し、クラブ広報からは「野口はシーズンオフ関係なく動いています」との返答がありました。

野口さんの生活スタイルは、まさに「年中無休」です。
「選手は12月から1月にかけてオフになりますが、我々スタッフはその間に翌年の準備や契約交渉があります。同時に高校選手権や大学インカレなどの大会が重なるため、その視察も欠かせません。ここ何年も、お正月を家族とのんびり過ごすことはできていないですね。関東で大会がある時は、境町の実家から会場へ通うこともありますよ」とのこと。2026~27シーズンから、Jリーグは秋春制へ移行します。それに伴い、選手のオフの時期も6~7月になりますので、多少変化はあるかもしれないそうです。

春先には全国各地でフェスティバルが開催され、4月からは各カテゴリーのリーグ戦が開幕。有望な選手を追いかけて全国を飛び回り、時には外国人選手の視察で海外へ飛ぶことも珍しくありません。

これだけ多忙なため、自チームの試合をリアルタイムで見ることすら難しいと言います。
「土日はどこかの会場を視察しているので、生ではほぼ見られません。試合後にハイライトや映像をチェックして、常にチームの状況を把握するようにしています」

■「いろんな個性を」。スカウトの視点

平日もクラブハウスでトップチームの練習を視察し、「今のチームにどんな選手が必要か」を解像度高く把握した上で、他チームの映像チェックを行う野口さん。

「足が速い、ヘディングが強いなど、何か尖った『特徴』を持つ選手を探しています。同じタイプばかり集めても面白くありませんし、監督の選択肢が多い方がチームは強くなりますから。また、セレッソは自前のユース組織も非常に強いので、そこから昇格してくる選手とのバランスも意識しています」

■サッカーへの深い愛と、故郷・茨城への思い

休みの日でも「なんだかんだ海外サッカーの映像を見たりしてゴロゴロしている」と笑う野口さん。

「人や出会いに恵まれ、運が良かった」と語る野口裕司さん(セレッソ大阪提供)

「人や出会いに恵まれ、運が良かった」と語る野口裕司さん(セレッソ大阪提供)

自身のキャリアを振り返り、「人や出会いに恵まれ、運が良かった」と謙虚に語ります。
「辛いことがあっても、自分で選んだ道。何よりサッカーが好きだからポジティブに考えられます。これからの夢は、自分がスカウトした選手が日本代表になって活躍してくれることです」

故郷・茨城については「仕事で行く機会は限られますが、年2〜3回は帰ります。お正月に実家へ帰り、そこから高校サッカー選手権の視察に向かうのが恒例ですね」とのこと。境町を拠点に、未来のスター選手を探しに出かける姿が目に浮かびます。

自分を「いたって平凡」と称する野口さんですが、取材前日に行われたセレッソ大阪の敗戦について触れると、まるで身内を案じるような情に厚い表情を見せてくれたのが印象的でした。

野口さんはこれからも、全国のグラウンドや世界のスタジアムを巡り、プレーヤーと同じ熱量で「共に戦う仲間」を探し続けます。


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