茨城県筑西市丙のしもだて美術館に足を踏み入れると、そこには言葉を失うほどの「光」と「音」の洪水がありました。
事故による高次脳機能障害を乗り越え、世界的ディジュリドゥ奏者から画家としての才能をも開花させたGOMAさん。現在開催中の「筑西市誕生20周年記念 GOMA ひかりの世界展」(市、市教育委員会主催)は、単なる絵画展ではなく、彼の脳内に広がる景色を追体験するような、強烈なエネルギーに満ちた空間でした。
昨年12月から始まったこの展覧会について、その圧倒的な体験をリポートします。

しもだて美術館が入るしもだて地域交流センター「アルテリオ」=筑西市丙(資料写真)
事故で突如湧き上がった衝動
GOMAさんは、オーストラリアの先住民族の伝統楽器「ディジュリドゥ」の世界的な奏者として活躍していました。しかし2009年、交通事故で大けがを負い、それ以降、脳に大きなダメージが残ったことによる高次脳機能障害に悩まされることになります。意識を回復するまでに見た「ひかりの景色」が、GOMAさんの作品の根底にあります。

「筑西市誕生20周年記念 GOMA ひかりの世界展」入口=しもだて美術館
身体の芯に響く倍音。会場を満たす「ディジュリドゥ」の重低音
会場に入ると、重々しい低音が響いてきます。これがGOMAさんの奏でる、オーストラリアの先住民族の伝統楽器「ディジュリドゥ」の音色です。GOMAさんは1998年に、オーストラリアのアーネムランドで開催されたバルンガ・ディジュリドゥ・コンペティションで準優勝。以降、国内外の音楽フェスティバルで活動してきました。

会場に展示されているGOMAさん所有のディジュリドゥ=しもだて美術館
「ディジュリドゥ」は、世界最古の管楽器の一つとされ、数万年前から儀式などで使われてきたと言われています。材料となるユーカリの木などをシロアリが食べることで自然にできた空洞を利用した民族楽器です。全長は1メートルを超え、吹き口部分には蜜ロウが塗られています。
演奏の際、唇を震わせ、その振動を吹き口に当て、口や筒の中で共鳴させることで音が出るそうです。太さや長さなどは決まっておらず、部族によっても形状や音色は異なります。会場にはGOMAさんのものも展示されています。
点描に込められた圧倒的な熱量
最初の展示室には比較的最近の大きな作品が並んでいます。遠くから見ると、いずれも放射状の円や幾何学模様の美しいグラデーションにしか見えませんが、近くで見れば点描で描かれていることが分かります。
点描の感覚が少しでも離れてしまうと、隙間が目立ってグラデーションには見えないと感じました。点同士が接触しないぎりぎりの所に描かれています。

展示室内の様子=しもだて美術館
それは、計算に基づいたものではないそうです。作品製作中の動画も上映されていますが、事故後、GOMAさんは記憶力の低下、昏睡、意識喪失などさまざまな後遺症に苦しんできました。
その一方、当時4歳の娘さんの道具を借りて絵を描き始めました。それまで絵筆を持ったことはなかったそうですが、一心不乱に何枚も描き続けたそうです。
GOMAさんは後に「後天性サヴァン症候群」と診断されます。「後天性サヴァン症候群」とは、事故などで脳に衝撃を負うことで、音楽や絵画など全く別の分野で新しい才能が開花する現象です。
絵を描くことが自身のライフワークとなっているGOMAさんですが、それは脳に障害を負ったことに対する代償行為ではなく、「頭に浮かんだイメージを描かずにはいられない」という、身体全体から湧き上がるエネルギーそのものを表現したものだと感じます。
作品の点描は、全てGOMAさん自身が描いています。
1作品に一体幾つの点を描くのか、計算しようと思いましたが、点描があまりに緻密で、すぐ数えるのを諦めました。
「描かずにはいられない」。不安と衝動が入り交じる初期作品
展示室を奥に進むと、比較的小さな作品が並ぶコーナーがあります。こちらは、GOMAさんの事故直後の作品を紹介しています。
この当時は、事故により記憶と言語をつなげる脳の部位にダメージを受けたことで、GOMAさんが外部とのコミュニケーションの代替手段として、脳内に浮かんだイメージを率直に絵に表現し、欠落してしまった機能を補完する役割があったと解説されています。
これら初期作品は、点描の技法や放射状につながるグラデーションのイメージこそ現在のイメージに似ていますが、瞳をモチーフにするなど異なる部分もあります。色使いも派手さが無く、事故から思い起こされる不安や不穏を感じさせます。
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夢の使い2(2011)=しもだて美術館提供
また、絵の具の知識が無かったことから、アクリルや水彩、油彩といったさまざまな絵の具を、素材の違いを考慮せずに混ぜてしまい、点描の大きさや色が安定していない時期でもあったようです。展示されている初期作品からは、そうした不安が色彩ににじみ出ているように感じられました。
音と映像で思わず瞑想
最後の部屋には、「ひかりの景色」と題した瞑想スペース設けられています。「ディジュリドゥ」の響く暗闇の中で、点描で描かれたさまざまな模様が乱舞する動画が上映されています。
椅子だけでなくヨガマットも敷かれており、「ディジュリドゥ」の音に包まれながら瞑想することができます。ヨガマットはGOMAさんの描いた作品をプリントしたものです。

「ひかりの景色」と題された瞑想スペース=しもだて美術館
展覧会期間中は、GOMAさんのギャラリーツアーが行われます。参加無料ですが、当日発行の入館券が必要になります。
日時:2月15日(日)午後1時30分~
会場:しもだて美術館企画展示室内
参加費:無料(当日発行の入館券が必要)
本展覧会は、一部作品を除いて写真撮影可能なのもうれしいですね。点描で描かれた緻密な「ひかりの世界」を、ぜひ間近で体験してみてはいかがでしょうか。
会期:2026年年3月1日(日)まで
休館日:月曜日(2/23は開館し、翌日休館)
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時半まで)
入館料:一般700円/団体(10人以上)650円/高校生以下無料
ホームページ:https://www.city.chikusei.lg.jp/museum/tenrankai/kaisaityu-tenrankai/page013286.html
