藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑む将棋の第83期名人戦第5局が5月29、30日、茨城県古河市で開かれます。勝負の行方とともに注目を集めるのが「勝負めし」。対局者が選ぶ昼食やおやつを掲載した「メニューブック」で紹介された地元の飲食店や菓子店などは、2人に万全の力を発揮してもらうとともに、「地元の味」を広く知ってもらえるよう工夫や準備を進めています。

古河市の名人戦特設サイトのイメージ=古河市提供
▼問い合わせ
「メニューブックに載ったものってあります?」。外食チェーンの坂東太郎(同市高野)が運営する8代葵フルーツパーラー(同)には、店頭での問い合わせが目立つようになったそうです。同店では自社栽培の果物を使ったスイーツが楽しめます。
メニューブックには、サツマイモを使ったモンブラン「ヴィクトリースイートポテト」と、メロンの果肉がぜいたくに感じられる「まんまるメロンソーダ」の2品が掲載されました。モンブランは、芋チップで勝利を表す「V」の字をあしらうなど、対局を想定して「見た目」にもこだわりました。

JR古河駅の観光案内所脇に立てられた対局者の等身大パネル。対局に向け機運も高まる=JR古河駅
同店の担当者は「茨城県産の食材を堪能してほしい」と話します。今後交流サイト(SNS)でもPRし、名人戦に関連したメニューも増やしていきたい考えです。
▼3部門に40品
メニューブックには勝負めし、勝負スイーツ、勝負ドリンクの3部門で計40品を掲載されています。地元主催の市将棋名人戦実行委員会(委員長・針谷力市長)が「将棋に詳しくない人も含めて市民全体を巻き込み、市の活性化につなげたい」(担当者)との思いで、地元の飲食業者や製菓業者からメニューを募ったそうです。現在市の特設サイトでも見ることができます。

メニューブックのイメージ(古河市のホームページから作成)
めし部門で「福包み餃子ほんとん定食」が掲載された丸満餃子(同市本町)は、創業から60年余り、地元で親しまれてきた老舗。代表の井上玲さん(66)は「あんも皮も全て手作りで、もちもちした食感が特徴。ぜひ召し上がってほしい」と期待を込めます。
スイーツ部門に載る老舗和菓子店はつせ(同市横山町)の「しらたま」は、丸めて焼き上げた黄身あんをホワイトチョコでコーティングしたひとくちサイズのお菓子。代表の五十嵐順さん(65)は「古河公方の娘、氏姫が愛したシラサギの卵をイメージしている。白くて丸い形で『白星』にもつながり、縁起がいい」とアピールします。
メニューブックには、このほか「古河名物 甘露煮物語」や「古河名物 御家宝」「古河市お茶農家のさしま茶」といった市の伝統料理や特産品を使ったメニューが紹介されています。
▼選ばれたら
対局中の藤井名人や永瀬九段に実際に選ばれると、メディアにも取り上げられ、注目度は一気に増します。一方で、当日は対局者の分に加えて、関連イベントのプレミアムツアーの参加者や撮影用など複数人数分を作らねばならず、調理や会場への運搬などの提供体制を整える必要もあります。

将棋の名人戦第5局の対局会場となるホテル山水の「吉祥の間」。床の間には高橋采子社長が依頼した書「一擲」が飾られた=古河市中央町
ある掲載店からは「メニューブックに載せてもらっただけでも光栄。もし藤井名人や永瀬九段に選んでもらえたら夢のようだが、うちのような家族経営で小さな店だと、ばたばたしちゃうかもしれない」と、うれしくも悩ましい声も漏れていました。