日本に3つの都道府県が接する「3県境」は数多く存在していますが、「4県境」はないそうです。そんな中、全国で最も「4県境」に近い場所として挙げられるのが、渡良瀬遊水地の南側の茨城、埼玉、栃木、群馬の4県。では、その近さとはどんなものか。実際にこの足で歩いて、確かめてみました。
スタートは城下町・古河から
出発地点は、茨城県古河市のJR古河駅にしました。宇都宮線の快速電車が停車する駅で、駅西口には28階建てのタワーマンションも立っています。
埼玉県加須市、栃木県栃木市を越えて、群馬県板倉町の東武板倉東洋大駅までは、Googleマップで見ると約8km。歩けないこともない。そんな気がしたのです。
そもそも、この4県横断は北関東3県境エリアの生活情報サイト「とりぷれ」のオープンを記念して企画したもの。とりぷれ編集部からは、栃木から私、茨城からstarsiaさん、群馬からもメンバーが同行してくれました。
県境がある西へと歩き出して早々、篆刻美術館などの歴史的で趣のある建造物が目に留まります。
それもそのはず、古河市は古くは「万葉集」に詠まれ、戦国時代にかけては古河公方の本拠地、江戸時代には古河城の城下町、さらに日光街道の宿場町として栄えた“歴史のまち”。街歩きに適した、風情のある街並みです。
うなぎ屋さんが多い街の名店
古河駅周辺を歩いてみて驚くのは、鰻、うなぎ、ウナギ…。そう、うなぎ屋さんの多さです。渡良瀬川と利根川が市の西側で合流し、昭和30年代の頃までは渡良瀬遊水地でも天然もののうなぎが獲れたそうで、川魚を食べる文化が根付いているそうです。
そのうちの1軒、江戸町通り沿いの「うなぎ川松」さんの暖簾をくぐりました。店先から漂ってくる、香ばしい匂い。8kmも歩くのだから、腹ごしらえが必要に違いない。都合の良い理屈を並べ立てるのは得意です。
創業54年はこの周辺では新しいそうですが、うなぎ好きには知られた名店です。注文を受けてから蒸すのが店のこだわりで、2代目の三瓶和弘さんが早速取り掛かってくれました。
頼んだのは、うなぎ1本がまるまる乗った「うな重(竹)」(4100円)。小鉢、お新香、お吸い物(+100円で肝吸い)、デザートが付いてきます。
いよいよ口にしたうなぎは、ふんわりと優しく、じわーっとうまみが広がっていきます。高まりきった期待値を軽く超えてきました。
うなぎの身の厚みも十分で、本格的なウォーキングが始まる前から満腹です。お財布的にも奮発しましたが、これも新サイトの成功を祈願するため。都合の良い理屈を並べ立てるのは得意です。
県道9号線沿いの堤防をゆく
お店を出て、渡良瀬川に架かる三国橋の真ん中で、最初の県境が現れました。茨城県から埼玉県へ。そもそも、この三国橋という名称も、茨城、埼玉、栃木の3県に由来しているのでしょう。
三国橋を渡り切ってすぐに、東武日光線の新古河という駅があります。古河という名前が付いていますが、所在地は埼玉県加須市向古河(むかいこが)。駅東口に1軒だけある飲食店には、やはり「うなぎ」の文字が躍っていました。
ここから板倉方面へは、県道9号線(佐野古河線)沿いを行くことになります。交通量が多く歩道もないため、渡良瀬遊水地の堤防の遊歩道を歩きました。
この日は、この冬一番といわれる寒気の影響か、西から強く冷たい風が吹いていました。われわれの進行方向からすると、完全な向かい風。「逃げ場がない」とは、まさにこのことです。
シュールな観光スポット「三県境」
栃木県との県境は、9号線の途中にありました。堤防の遊歩道にも「埼玉県│栃木県」のペイントが。この4県横断では、わずか200mほどの距離が栃木市域になっています。
南側から広大な渡良瀬遊水地を眺めます。西日に照らされ、少し切ない雰囲気を醸しだしていました。
ここまで来たなら、栃木、埼玉、群馬の県境が接する通称「三県境」に立ち寄らざるを得ません。9号線からわずかに南へ逸れると、なにげない畑の中に木製のいすや立て看板が現れます。ただただ、県境であることを示している、少しシュールな空間です。
強風のせいか「栃木県」の立て札が倒れていたので、みんなで埋め直しました。ここで、群馬県にも無事お国入り。うなぎを食べた時間を除けば、古河駅から約1時間。茨城県境からは約40分で「北関東3県(+埼玉県)」を踏破しました。
お米と野菜が人気の道の駅
三県境のすぐそばには「道の駅かぞわたらせ」があるので休憩です。よくよく見ると、周辺にはあちこちに三県境への道順を記した案内板が。恐るべき“三県境愛”。
支配人の荻原次男さんにお話を聞くと、ここでは地元・加須市の農作物が売れ筋だそうです。埼玉県ナンバーワンともいわれる米どころの旧北川辺町(現加須市)で収穫されたブランド米、加須市で栽培されたトマトや大根、ネギなどの野菜が店頭に並びます。
店先には、板倉町に工場がある「大阪王将」の冷凍餃子の自動販売機も。店内では栃木県産いちご「スカイベリー」も販売されており、県境を越えたつながりを感じさせます。
道の駅にはお食事処もありました。加須名物のうどんが食べられるお店で、今度訪れた際にはぜひ食べてみたいものです。
板倉のおしゃれカフェでご褒美
残りはあとわずか。おさまることのない向かい風に口数も減ってきましたが、ゴールに定めた板倉東洋大駅を目指して歩きます。
9号線から西に折れて細い道へ。しばらくすると、突如として目に飛び込んでくるのが、ニュータウンの街並み。ついに、板倉東洋大駅までたどり着きました。
ゴールといえばゴールなのですが、ここまで歩いた自分にご褒美を与えなければ終われません。駅周辺にはニュータウンの住民や大学生が訪れるカフェがいくつかあるのですが、東口から歩いてすぐの「ロポン」さんに向かいました。
迎えてくれたのは、オーナーの増田司さん。ショーケースでは10種類を超えるケーキ、ファンが多いというマカロンやカヌレといった品々が宝石のように輝き、歩き疲れた私たちに微笑みかけてくれています。
ホットコーヒー(320円)と、チョコレートケーキ(420円)を注文して“生命回復”。午後からのスタートだったこともありますが、あたりはすっかり暗くなっていました。
全国で最も近い「4県境」をまたぐ旅、いかがだったでしょうか。渡良瀬川流域エリアの共通性と、市町ごとの異なる魅力を同時に感じられる、貴重な体験になりました。
なにも無理して歩かなくても、車を使ったり東武日光線を使ったりすれば、今回のようなコースを巡ることができます。ぜひ、4県境を制覇してみませんか。