茨城県筑西市の下館駅北口から徒歩約5分。大通り沿いに「湖月庵」はあります。古民家風の重厚さとカジュアルな雰囲気の両方を備えた店舗。のれんをくぐると社長の上野貴則さんが笑顔で迎えてくれました。
「湖月庵」は1946(昭和21)年の創業で、上野さんが3代目になります。大学を卒業後、2年間会社勤めを経験し、さらに中国ですし店の立ち上げにも関わりました。そんな生活の中で和菓子の魅力を再認識し、筑西市に戻って家業に就きました。それから2年間は東京の製菓学校に通い、和菓子作りを改めて学びました。
看板商品は「館最中」。第19回全国菓子大博覧会で名誉大賞を受賞した、筑西市を代表する銘菓と言えます。
下館の「館」から命名し、「やかたもなか」が正式名称ですが、通称である「だてもなか」で親しまれています。口に運ぶとさくりとした食感の後に、甘さを抑えた小豆あんの味が広がり、さらにあんの中には餅(ぎゅうひ)が入っていて、満足感をより高めてくれます。小豆は北海道十勝産を使用しています。
そのほかお薦めする商品の一つは、「きぬのまゆ玉」です。茨城県大子町産のブランド卵・奥久慈卵を使った黄身あんをホワイトチョコレートで包んだ「絹白」と、茨城県西地域の特産品・さしま茶の香りとうまみをチョコに溶け込ませた「抹茶味」の2種類。こちらも第27回全国菓子大博覧会で農林水産大臣賞を受賞しています。
「素材、あん、鮮度にこだわり、地元茨城の食材を可能な限り取り入れる」というのが上野さんの基本的な考え方です。それに従って完成した商品の一つが、クリの一大産地・笠間市のクリを主役にした焼き菓子「福は栗」です。
まろやかでしっとりとした白あんには奥久慈卵の黄身がぜいたくに練り込まれ、ごろっと存在感のある笠間クリが入っていて、一度にたくさんの食感を楽しむことができます。
そのほか、第23回全国菓子大博覧会で技術優秀賞を獲得したどら焼き「館どら」、黄身あんに加えてバターの香りが楽しめる「つくば路」ほか、買い物の際はどれを選ぼうかと迷ってしまいます。
SL模型で代金やり取り
上野さんはJR水戸線、関東鉄道常総線、真岡鉄道真岡線が乗り入れる、鉄道の要衝としての下館駅にも着目し、地域活性化にも尽力しています。
コロナ禍のさなかに、コロナ感染防止へお客さんと店員とのソーシャルディスタンスを保とうと、鉄道模型の蒸気機関車「ディスタンス号」を導入しました。カウンター上に設置された長さ約2.5メートルのレール上を「シュッ、シュッ」と音を鳴らしながら走らせて、代金や釣り銭をやり取りするものです。希望すれば、現在も対応してもらえます。下館駅は真岡鉄道「SLもおか」の発着駅。地元らしい発想です。
和菓子自販機で24時間対応
また、店の前に自動販売機を置いて、看板商品の「館最中」「きぬのまゆ玉」「福は栗」などを単品から(きぬのまゆ玉は3個から)営業時間外でも購入できよう配慮しています。
「(自販機からは)実は男性が買ってくださることが多いんです。1つだけ食べたいという時や、甘いものを買うのがちょっと恥ずかしいという方が利用してくださっているようです」と上野さんが教えてくれました。筆者も甘党なのでよく分かります。自販機の売り上げの一部を日本赤十字社に寄付しています。
上野さんは「地元の、茨城の素晴らしい食材を商品作りに取り入れ、同時に筑西市をPRしながら活性化に少しでも貢献していければ」と意気込んでいます。おいしい和菓子を手に、筑西のまちを歩いてみませんか。