茨城県は、埼玉県に次ぐ関東地方のお茶の産地です。2015年の生葉収穫量は1170トン、荒茶生産量272トン。さしま茶、奥久慈茶、古内茶が茨城三大銘茶と呼ばれますが、中でも最大の産地である茨城県南西部特産のさしま茶を生産・販売する、茨城県古河市の吉田茶園で経営企画を担当する吉田浩樹さんからお話を伺いました。
明治期には輸出も!
さしま茶は、茨城県古河市、坂東市、常総市、境町、八千代町が産地です。夏は暑く冬は寒い気候と猿島台地の肥沃な土壌から、濃厚な味と香りの厚みがある茶葉が特徴とされます。1611年の茶検知帳に栽培の記述があることから、江戸時代に栽培が始まったようです。1859年には、日本茶として初めてアメリカに輸出されています。
「猿島茶」「さしま茶」と分かれていた表記が、2009年に「さしま茶」に統一され、本格的なブランド化が始まりました。「さしま茶は現在約30件で生産していますが、他の産地と異なりお茶を扱う市場が無く、産地として結束する力は強くありませんでした。その分、製造から販売まで行う生産者が多く、それぞれが既存の流通経路に縛られないさまざまな取り組みをしています」と吉田さんは現状を説明します。
和紅茶でも高評価
吉田茶園は1839年創業の老舗。2.3ヘクタールの茶畑で茶葉を生産し、「ほくめい」や「はるみどり」「いずみ」といった緑茶のほか、発酵茶の技術を煎茶に生かそうと2012年から和紅茶(国産紅茶)を自社生産しています。18年には都内で開かれた全国コンテストで最高賞を受賞し、売り上げを伸ばすなど高い評価を受けています。
リブランディングへの果敢な挑戦
既存商品のリブランディングにも取り組み、茨城県内の優れたデザインを選定する「いばらきデザインセレクション2023」で、商品パッケージや、包装紙などを新たにデザインしたブランディングプロジェクトが知事選定に選ばれました。茶葉を入れる袋は、従来の平袋からスタンド型に変更したものやティーバッグにした商品も加え、幅広い年代の人に気軽に手に取ってもらえるよう工夫することで、若年層へのアプローチも意識したパッケージを採用しました。吉田さんは「伝統を守りつつ、時代に合った形でお茶の良さを広めたい」と話します。
同社がこうした取り組みを行う背景には、新しい顧客層の開拓や、「家業から事業へ」という思いがあります。ティーバッグを販売することで、味はもちろん利便性や手軽さを前面に出し、子育てや仕事で忙しい人も簡単にお茶が楽しめるよう気を配ります。もちろん昔から続く平袋での販売も残し、じっくり急須で楽しみたい人の需要にも応えます。
「ワイナリーは、ワインの製造、販売だけでなく、レストランがあったり試飲ができたりと、ワインを1日中楽しめる施設です。それを参考に将来、お茶のテーマパークが造れないか、いろいろなことを考えています」と吉田さんの夢はさらに広がります。2024年6月にはお茶を使ったサウナやカフェなどを準備中ということです。
お茶のサブスクや見学ツアーも
同社では、見学ツアーや製茶工程の紹介なども実施しています。季節に合わせて、20種類以上の中から毎月2種類のお茶15杯分を届ける「お茶のサブスク」(月額1980円)も昨年10月から始めました。全国的にも珍しい取り組みで「これまでリーチできなかったお客さまに届けたい」と期待を込めます。
お茶の販売の概念を変えようと奮闘する同社の取り組みから、今後も目を離せません。
〈住所〉〒306-0236 茨城県古河市大堤1181
〈電話番号〉0280(31)8827
〈営業時間〉火曜日~土曜日 午前10時~午後5時
〈定休日〉毎週月曜、日曜(月曜日が祝日の場合も休み)
〈URL〉吉田茶園
〈Instagram〉@yoshida_chaen