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しもつかれは現代のサステナブルフード 「イメージを塗り替える」栃木市からデザイナー視点の挑戦



栃木県の郷土料理といえば「しもつかれ」。独特の見た目や味、臭いから嫌いな人も多い食べ物ですが、そのマイナスイメージを一新しようと挑戦している人がいます。栃木市在住のブランディングデザイナー青栁徹さんに、活動の原点や思いについてお聞きしました。

なぜ「しもつかれ」だったのか

実は青栁さん自身も、もともとはしもつかれを好きではありませんでした。

「小学校の給食で出てくるしもつかれって、酒粕が入っていましたよね。子供の体で受け付けないのは当たり前で、それでみんな食べられなくなったんじゃないですかね」

積極的には口にしないまま、大人に。デザインの仕事に就いて、30代半ばで独立するタイミングで、都内の講習に通ったことが転機となりました。

栃木県民なら知らない人はいない郷土料理「しもつかれ」(青栁さん提供)

最後の制作課題として取り組んだのが「自分が住んでいる地域の課題を解決するデザイン」。頭に浮かんだのが、しもつかれでした。

デザインにおいて、見た目は印象を大きく左右する要素に違いありません。見た目が良くないことでネガティブな印象を持たれている、しもつかれ。それを自分のデザインでひっくり返せたら面白いのでは-。そう考えたのです。

「しもつかれ愛がすごいとか言われるんですが、そんなことはないんです。最初はただ、自分のブランディングデザイナーとしての力を試せると思ったんです」

誰も目を付けていないからこそ

自分なりに調べるようになると、しもつかれが「ものすごく面白い素材」であることに気づいたといいます。

1000年の歴史があるといわれる郷土食。好き嫌いが分かれるとはいえ、栃木県民で知らない人はいません。

イベントでしもつかれ料理の試食を楽しむ参加者(青栁さん提供)

さらに、いろんな側面から捉えると、現代的な価値観にことごとく合致した「サステナブルな」食べ物であることが見えてきました。

  • 酒粕、鮭頭、大根などが入っていて栄養価が高い→「予防医療・健康維持」
  • そもそも廃棄する部分で作られていた→「もったいない精神」
  • 近所にお裾分けする文化があった→「シェアリングエコノミー」
  • 家庭によって入れる具材も味付けも違う→「ダイバーシティ」

誰も目を付けていない分、自分なりの解釈を世の中に提示しやすいのではないか。しもつかれは「ブルーオーシャン(未開拓の市場)」。青栁さんは確信を持って、そう言います。

仲間と「一次情報を塗り替える」

具体的な活動をスタートさせるため、2018年1月に仲間と立ち上げたのが「しもつかれブランド会議」でした。

力を入れたことのひとつが、WEBメディアやSNSでの発信です。

「見た目が悪いとか生臭いとか、そういった情報ほどSNSで拡散されやすいと感じていました」。そのイメージは払拭されない限り、子ども世代にも受け継がれてしまいます。

「大事にしているのは、『一次情報を塗り替える』ということ。検索した時にポジティブな情報が出れば、それが広がっていくはずです」

しもつかれブランド会議のメンバー(青栁さん提供)

しもつかれブランド会議は、会費月1000円のオンラインサロンとして運営しています。ただ、そこで収益を得ることが目的ではありません。しもつかれを題材にプロジェクトを展開するメンバーの挑戦を、青栁さんをはじめとする周囲がサポートします。

現在のメンバーは約30人。年齢層は大学生から60代ぐらいまで、職種も飲食業、農家、デザイナーなど幅広い顔ぶれです。メンバーではない人や団体とも連携し、これまでに、多種多様なプロジェクトが進行してきました。

プロジェクトから生まれた商品を紹介する青栁さん

しもつかれを現代風にアレンジした料理、しもつかれに合う日本酒、ボードゲーム、キーホルダー、歌…。馬頭高校(那珂川町)水産科の生徒たちと、しもつかれの缶詰を共同開発もしました。

活動開始から6年。県外の人から、こんなことを言われました。「青栁さんがよくSNSに投稿している、あのおしゃれな食べ物って何ですか」。しもつかれに対する世間のイメージを、少しずつ転換できていると感じています。

統廃合の危機にあった母校で

本業以外でもうひとつ、青栁さんが力を入れていることがあります。それは、母校・国府南小学校(栃木市)の子どもたちの創造性や問題解決力を育むプロジェクト「oneclass」の活動です。

下野市との境に近い国府南小学校は児童数の減少から、統廃合の危機にありました。青栁さんは小学校時代の先輩から依頼されたことをきっかけに、母校の魅力づくりに関わるようになります。

大事にしたのが「この学校でしか提供できない体験」。特色ある学校運営がしやすい小規模特認校であることを生かして、プログラミングやデザインの授業、落ち葉などを集めて作った堆肥で野菜や花を育てる「コンポスト活動」などを企画してきました。

本業のかたわら、しもつかれや母校のプロジェクトに取り組む青栁さん

そうした効果もあって、一番少ない年で36人だった全校児童数は、新年度で50人を超える見込みです。

地域の人たちも、子供たちと一緒に授業を受けることができます。学校との関わりが生まれたことで、地域も明るくなってきたといいます。

「児童数も増えてきましたが、学校もいつかはなくなるかもしれません。大事なのは、コミュニティがなくならないこと。いま、地域の人たちがつながっておくことが大切なんだと思います」

目指すのは僕らがいなくなること

青栁さんは現在47歳。しもつかれ、母校…。本業のかたわら「何もしなければなくなってしまうもの」に自分なりに向き合い、挑戦を続けてきました。

しもつかれブランド会議では、5回目を迎えるイベント「しもつかれうぃーく」を2月10日まで開催しています。今年は過去最多の約90コンテンツを展開し、最終日にはJR栃木駅北口でのイベントが待っています。

おしゃれなアレンジ料理として広がりを見せるしもつかれ(青栁さん提供)

活動は広がるばかりですが、最後に口にしたのは意外な言葉でした。

「目指すのは僕らがいなくなること。居座りすぎてしまうのもよくありません。僕らがいなくなったときが、文化として復権できたということだと思います」

視線は、もっと先を見据えています。

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