粛粲寶美術館外観=猿島郡境町坂花町 地域別
粛粲寶美術館外観=猿島郡境町坂花町

茨城県境町をそぞろ歩く(上) 隈研吾氏設計の粛粲寶美術館 遊印の魅力、思わぬパワースポットも



今回は、茨城県境町坂花町の粛粲寶しゅくさんぽう美術館と、道の駅さかいの人気店「さかいサンド」を(上)と(下)の2回に分けて掲載します。

今回紹介する粛粲寶美術館は2020(令和2)年に開館しました。建物は世界的建築家の隈研吾氏の設計によるものです。白木を多用した外壁が特徴で、コンパクトな造りながら一直線の内部構造のため、見た目以上に内部が広く感じられ、ゆったりと作品を楽しむことができます。奥に進むと右側に入り口があります。

粛粲寶美術館外観=境町坂花町

粛粲寶美術館外観=境町坂花町

美術館にその名が冠せられている粛粲寶(1902〜1994)は、大正初期〜平成初期に活躍した、新潟県出身の画家です。

1929(昭和4)年に西洋画「警官と息子」で帝展に初入選。1930(昭和5)年には日本画「千足所見」で院展に初入選、1931(昭和6)年に西洋画「無題」で帝展に入選するなど当時の画壇で活躍し、おおらかで文人画調の独特の花鳥風月や人物画などの作品を残しました。

境町で生涯を終える

1933 (昭和8) 年に院展試作展覧会に日本画「新潟税開岡」で入選しましたが、日本画で師事していた小林古径の「二世」「亜流」などと言われることに悩み、一度絵の世界から離れます。その間1937(昭和12)年まで、奈良の善光寺で奇食きしょく生活を送り、その後、再び作家活動に入りました。画壇とは距離を置き、個展を中心に作品発表を続けていました。1989(平成元)年からは境町で過ごし、そのまま91年の生涯を終えました。

粛粲寶が境町に移り住むきっかけとなったのが、胡牀庵青空子こしょうあんせいくうし(中山正男粛粲寶美術館館長)との縁になります。中山さんは境町出身の日本画家で、粛粲寶の唯一の弟子です。

1965(昭和40)年、中山さんは台湾の美術館に行きたかったため東京・有楽町にパスポートを取りに行ったところ、道に迷いました。その際たまたま入った三越で粛粲寶の個展が開催されており、意気投合。以後25年、粛粲寶が住んでいた東京都杉並区久我山まで通ったそうです。

家業の時計店が忙しくなり久我山に通うのが難しくなると、今度は粛粲寶が境町に引っ越してくることになったそうです。粛粲寶が亡くなるまで交流は続きました。

胡牀庵青空子(中山正男粛粲寶美術館館長)=境町坂花町

胡牀庵青空子(中山正男粛粲寶美術館館長)=境町坂花町

中山さんは最初は絵を描いていましたが、粛粲寶が自身で印を彫るのが難しくなったため、印を彫る勉強をしました。

遊印=猿島郡境町坂花町

遊印=猿島郡境町坂花町

館内では現在、企画展「印で遊ぶ粛粲寶と遊印の魅力」(7月25日まで)が開かれており、粛粲寶の絵画等、色紙、遊印、胡牀庵青空子の遊印、絵馬が展示されています。

粛粲寶の作品が並んでいる=猿島郡境町坂花町

粛粲寶の作品が並んでいます=境町坂花町

遊印とは、1300年代後半から1600年代前半に栄えた中国の明の時代に、文書の不正を防ぐ目的で押された印章のうち、右下に押す押脚印おうきゃくいんのことを指すそうです。遊印はその後、文書だけでなく書や絵画にも押されるようになってきます。すると押す場所の制限がなくなり、作者の好きな場所に押印されるようになりました。

印面に刻まれる文字なども作者の思想や宗教観を表す言葉、縁起のいい言葉、マークのような象徴的なものまで、好きなものを刻むようになったそうです。

好きな言葉を石や陶器、木材などさまざまな素材に刻み、押印することで作品に彩りを与えて、日本画や書作品、イラスト作品などさまざまな媒体で現在でも使われています。

館内=境町坂花町

館内=境町坂花町

金箔に込めた願い

館内には思わぬパワースポットもありました。東京・銀座の三越屋上には、原画を粛粲寶が描き、彫界の鬼才と言われた岩城信嘉(1935〜2008)が彫った出世地蔵尊が祭られており、その複製品が館内に安置されています。

出世地蔵尊像の自分の身体の不調な部分に金箔きんぱくを貼ると、不調が治ると言われており、今でも貼りにくる人がいます。金箔は1枚550円で販売されています。あまりにも多くの人が貼ったため、像全体が金色に染まっていました。

粛粲寶美術館の出世地蔵尊=猿島郡境町坂花町

粛粲寶美術館の出世地蔵尊=猿島郡境町坂花町

次回の企画展は隈研吾展(タイトルは未定)で、8月3日から9月23日まで開催される予定です。

この後は、自動運転バスに乗って、道の駅さかいに向かいます。

粛粲寶美術館
住所:茨城県猿島郡境町坂花町1455ー1
電話番号:0280-23-4148
開館時間:午前10時~正午(最終入館は午前11時半)
午後1時15分~午後5時(最終入館は午後4時半)
入館料:330円(18歳未満無料)※その他割引は企画展ごとにお問い合わせください
休館日:月曜日・火曜日(祝日の場合は開館、翌日は振替休館)
ホームページ:https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page003290.html

特 集

feature


特集一覧を見る