小学生のころ、下校するとランドセルを放って真っ先に向かったのが近所の駄菓子屋さんでした。毎日ではありませんでしたが、週に1、2回、50円玉を握りしめて勢いよく走ったものです。店の中には、数十分前まで教室で顔を合わせていた同級生の姿もあります。顔を見合わせ、その日の軍資金の配分を考えながら駄菓子を選ぶあのワクワク感は、予算内に収まるかというちょっとしたスリルも手伝って、何とも楽しいものでした。
憧れの金額で
茨城県古河市の「駄菓子屋MOKOMOKO」。営業は日曜限定です。午前11時ごろに伺うと、何組かの家族連れの姿がありました。
玄関に「くじガチャ」というものがありました。1回200円、どうやら引いたくじと景品を交換するシステムになっているようです。試したい気持ちもありましたが、ここはがまんです。なぜならこの日の軍資金は200円と決めていたからです。
なぜ200円かというと、当時同級生はほとんどが軍資金50円~100円でしたが、その中にいつも200円持ってくる子がいて、とてもうらやましかったからです。なので「駄菓子屋さんで200円を使う」という行為は、筆者にとってちょっとした憧れ。ここで使い切るわけにはいかないのです。
一軒家を改装した店の、玄関の隣部屋には椅子やテーブルが設置されており、購入品はこの場所で食べることができるようです。
廊下の壁に貼ってあるメニューに目が留まりました。ちょうど昼前でお腹が空いていたので、カレーコロッケ(60円)とふりふりポテト(200円)を注文しました。ちなみにこれは昼食代わりですので、駄菓子の予算とは別会計になります。
数分待つと、店の奥から香ばしい香りとともに「お待たせしました」の声が。どちらも揚げ立てサクサクです。ポテトは5種類の味付けからガーリックを選択。しっかりした味でビールが欲しくなりました。カレーコロッケはソースなしでも十分なおいしさです。
さあ、腹ごしらえが済んだところで待望の駄菓子コーナーへ。店の一番奥にあり、さながら秘密基地に初めて入るような心持ちです。
ドドーンと現れました! 少し薄暗い室内に、カラフルな駄菓子のパッケージが際立ちます。天井からぶら下がっているビニール玩具や、当時から何に使うのかイマイチ分からなかったがなぜか心引かれるカード類、そして箱のまま並べられている王道の駄菓子たち…完璧です。
小さなかごを手に、頭の中で計算しながら商品を選びます。繰り返しますが軍資金は200円。あれもこれもと目移りした末に、一旦は心に決めてかごに入れたものの、「これもあったか!」とすぐに振り子のように心が揺れ動きます。
何とか折り合いをつけてレジへ。予算内に収まっているか、この緊張感は子どものころと変わりません。そして「200円です」という声。ピッタリ! 心の中でガッツポーズしました。
当時のままでいい
この日一番の楽しみは「モロッコヨーグルト」です。壷のような容器と蓋にプリントされた象のイラストが、子ども心にほかの駄菓子とは一線を画すようなハイカラな感じに思えて、よく食べたものです。久しぶりのモロッコヨーグルトは当時と変わらぬ甘さと軽い口当たりでした。
大人になった今、この駄菓子が何でできているのか興味ありますが、あえて調べるのをやめます。子どものころに親しんだ味、それでいいんです。
子どもたちの成長、やりがいに
駄菓子屋の仕掛人は、古河市内で中古自動車販売関連の店を営む稲元一樹さん(36)です。5年ほど前、当時小学4年生だったわが子との雑談の中で、友だち同士で集まる場所はコンビニやスーパーだということを知り、「子どもたちの遊び場をつくりたい」と店の一室を開放して駄菓子屋を始めました。
最初は何の知識もなかったそうですが、常連客の中に駄菓子に詳しい人がいて、その人から情報を集めながら少しずつ形にしていったそうです。次第に口コミやSNSで店の存在が広く知られるようになり、中古自動車を扱う店の前の場所で2022年、日曜限定の駄菓子屋さんをスタートさせました。最近は市内のイベントや幼稚園、福祉施設などから声がかかるようになり、出張して店を開くこともあるそうです。
店には、空き缶を5個を持っていくと10円分のお菓子と交換できるシステムがあります。お金がなくても楽しんでほしいという稲元さんの気持ちが込められています。
休日に1人で店を切り盛りしているため大変なこともあるそうですが、一方で「週に一度の気分転換。店に来る子どもたちの成長を見られるのがうれしい」と、稲元さんは笑顔でやりがいを教えてくれました。
所在地:茨城県古河市小堤2020-61
営業時間:10:00~18:00
営業日:日曜
電話番号:080-3583-6060
インスタグラム:https://www.instagram.com/inamoto6666/