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身内すら見ていない→Xフォロワー1万人達成 栃木市にある“お堅い公共施設”にいったい何が?



私たちの日常に欠かせないものとなったSNSですが、仕事や個人のアカウントでフォロワーを増やす苦労を経験した人もいるのでは。身内すら見ていない-。そんな状況にあった、とある“お堅め”の公共施設のX(旧Twitter)アカウントが先日、フォロワー1万人に到達しました。開設から6年、どんな道のりがあったのでしょうか。

まさかのフォロワー1万人

そのアカウントとは、栃木県栃木市岩舟町にある「とちぎ花センター」(@Tochihana_jp)。公益財団法人の栃木県農業振興公社が運営する、いわゆる公共の植物園で、観光スポットとして有名とは言い難い施設です。

1万人達成の裏側を聞くべく施設を訪れると、Xを運用している“中の人”おふたりが迎えてくれました。

名前&顔出しはNGとのことで、園内に展示されている熱帯植物の名前を拝借して「マドカズラさん」「ディフェンバキアさん」として記事ではご紹介します(もちろん仮名です)。

熱帯植物で顔を覆うディフェンバキアさん、マドカズラさん(左から)

関係性でいうと、マドカズラさんが人生の先輩にあたり、ディフェンバキアさんがSNS運用の先輩にあたるそう。

フォロワーが1万人に到達したのは7月12日。画面上のフォロワー数のカウントが「10,000」ちょうどになっているのを確認すると、2人でハイタッチして喜び合ったといいます。

実は、1万人という数字は当初からの目標だったとか。「まさかです」とマドカズラさんが言えば、ディフェンバキアさんは「してやったりです」。1万人達成の一報は、所長がメキシコ風衣装で踊る記念動画とともに、瞬く間に拡散されました。

誰も見ていないんだったら…

Xのアカウント開設は2018年2月のこと。「Twitterをやってないなんて考えられない」。SNS世代のディフェンバキアさんの提案が始まりでした。

当初の投稿は、公共施設らしく企画展や体験教室のお知らせがメイン。文体もいたって真面目で穏やかなものだったといいます。

1万人達成直後の投稿を振り返るマドカズラさん

しかし、開設から1~2年が経ってもフォロワー数が伸びる気配はないまま。嫌になって1カ月近くアカウントを放置しても、誰からの反応もありませんでした。

そこで2人は気付いたそうです。一般の人はもちろん、身内である園の職員たちも見ていないのでは…。

「見ていないなら、好きに楽しくやっちゃえと思ったんでしょうね」とマドカズラさん。「怒られるギリギリの線」まで攻め込んだ、自由度の高い投稿が少しずつ増えていきました。

“植物好き”以外にも届けたい

そうして、徐々に完成していったのが現在の投稿スタイルです。園内の植物を活かした独特なアイディアに、ユーモアあふれる文体、#(ハッシュタグ)の嵐…。SNS歴の浅いマドカズラさんの型破りな突破力と、冷静なディフェンバキアさんの戦略力が融合し、独自の世界観を育んでいます。

ディフェンバキアさんが印象深い投稿に挙げるのは「レモン牛乳の象鼻盃」。ハスの葉を酒杯に仕立てた中国の飲酒法で、それを栃木名物のレモン牛乳で真似しました。

ハスの茎にはレンコンのような穴が空いているため、葉と茎がつながる部分に穴を空けると、葉に注いだ液体は茎の下部へと流れていきます。単にふざけているようで、ハスの特徴が一目で伝わる投稿となりました。

マドカズラさんの印象深い投稿は、自ら演じた「植物園のお仕事ピクトグラム」。東京オリンピックが開催された2021年8月、猛暑の大温室で繰り広げられる日常の風景を投稿しました。

コロナ禍で臨時休業中だった2020年5月には、来園者に見られることなく散ってしまうヒスイカズラの花びらで作った「ヒスイカズラアート」も話題に。世界中が陰鬱としていた時期でしたが、他の植物園にも明るい投稿の輪が広がりました。

投稿に関して2人で決めていることは「毎日する」「誰も傷つけない」といったことぐらい。特別なこだわりはないそうですが、「植物好きではない方にも興味をもってもらえたら」。ユニークな投稿の裏には、真剣な思いも込められているのです。

面白がる姿勢は園全体へと

Xが注目を集め始めるのと時期を合わせて、とちぎ花センターでは定期的に開催している企画展の内容も、インパクトの強いものへと変わっていきました。

ちなみに、現在開催している2つの企画展は「食虫植物展 食虫戦士タベンジャー大図鑑」と「雑草たべてみた展」(いずれも9月1日まで)。植物を展示することだけにとどまらず、植物にくわしくない人でも興味を持てるような仕掛けにあふれています。

スタッフ3人が実食を重ねた末に考案した雑草レシピを紹介する「雑草たべてみた展」

Xを担当している2人だけでなく、いい意味で面白がろうとする姿勢が園全体に浸透しています。「お金はないのでアイディアで何とかするしかありません」「(企画展の担当者は)面白いものを考えないと許されない雰囲気があります」と、2人は口を揃えます。

そうした効果か、とちぎ花センターはコロナ禍前よりも来園者数が増えているそうです。目立つようになったのは、「昔はまったく来なかった」という若いファミリー層。県外から訪れる人も多くなっています。

ネタはある?次なる野望は?

Xのフォロワー数は8月14日現在、1万500人を超えるまで伸びています。国内の植物園では、国内最大級として知られる「京都府立植物園」(約1.9万フォロワー)、大阪市の「咲くやこの花館」(約1.5万フォロワー)などの“大手”に次ぐ水準です。

一方で「ネタを考えるのも大変になってきています」と本音も。さらには「植物園ならではの悩み」なのだそうですが、動物園や水族館のように可愛らしい仕草をしてくれる動物たちがいないため、万人に興味を持ってもらえるネタも限られるのだとか。

次の目標を語るディフェンバキアさん、マドカズラさん(左から)

当初からの目標だったフォロワー1万人を達成した2人。今後はいったい、何を目指していくのでしょうか。

「次の目標は1万5000人です」とディフェンバキアさん。マドカズラさんは「楽しく、くだらない投稿を変わらず毎日続けていきたい」と話します。

自然あふれる三毳山の麓から全国、いや世界へ。これからも柔らかく、ぶれずに植物の魅力を伝えていきます。

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↓とちぎ花センターのSNSはこちらから↓

とちぎ花センター
住所:栃木県栃木市岩舟町下津原1612
開園時間:9:30~16:30(11月1日~1月31日は16:00まで)
休園日:月曜日(祝日の場合は翌日)、メンテナンス期間、年末年始
入館料(鑑賞大温室):大人400円(3~5月は500円)、こども110円
HP:https://www.florence.jp/

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