江戸末期から昭和初期にかけて建てられた蔵や商家が軒を連ねる茨城県桜川市真壁町の「真壁の街並み」は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。歴史的建造物が今なお息づく真壁町で、「親孝行あんドーナツ」を提供している白川菓子店を取材しました。
この日はあいにくの雨模様。ストーブをつけた店内へ迎え入れてくれた店主・白川宏さん(77)は、亡き父親の後を継いで16歳の時に和菓子職人の道へ進みました。「職人を目指していたわけじゃなかったけれど、親父が急死し、その後一人で店を切り盛りしていたおふくろを支えるためにやるしかなかった」。高校へ通いながら、店を手伝いにきてくれた近所の職人から手ほどきを受け技術を習得。その中の一つに、あんドーナツがありました。「後にうちの人気商品になってね。おふくろはお客さんにお茶を出してもてなしていたよ」と、当時を懐かしむ白川さん。最愛の母親は20年ほど前にこの世を去りました。
真壁には和菓子屋が点在しており、観光客に向けて和菓子マップを作る運びに。その中に各店自慢の一品を紹介しようということになり、白川さんは母親の面影が重なるあんドーナツを選びました。店番をしていた在りし日の姿を思い浮かべ、「名物あんドーナツは母を思い出す懐かしい味。親孝行したくなります」と説明文を添えたことがきっかけで、親孝行あんドーナツが誕生しました。
変わらぬ製法、価格も据え置き
作り置きせず、毎朝6時前から厨房に立って、昔から変わらぬ製法で仕込みます。生地には水を一切加えず、小麦粉と卵で練り上げます。あんこは、仕入れた生あんをドーナツ生地に合うように味を調整。生地であんこを包んだら低温の油でじっくり中まで火を通して完成です。毎朝揚げる量は100個! その日の売れ行きによっては追加で揚げることもあるそうです。「一番のこだわりは揚げたて」と白川さんは力を込めます。
店先で1ついただきました。ザクッとした食感の後に甘さがじゅわっと口の中に広がり、食べ進めるほどに生地とあんこが味を引き立て合います。どちらかといえば甘さは控えめですが、素朴な味わいの生地があんこの甘さを引き出していて緑茶にも合いそうです。お客さんからは「小さいころに食べたことがある味」「懐かしい味」という感想を多くもらうと言います。
作り方に加え、価格も昔と変わらず70円(税込)で提供しています。「物価も高騰しているから本音を言えばもう少し値段を上げたいところだけれど、テレビでも紹介されちゃったから上げるわけにはいかないじゃない。もう少しがんばろうと思ってね」。
テレビの人気番組でも取り上げられた、白川さんが作る親孝行あんドーナツには、母親を思う気持ちと職人の心意気が詰まっていました。
住所:茨城県桜川市真壁町真壁243
営業時間:7:30~18:30
定休日:水曜
電話番号:0296-55-0260